地域ポータルサイト【地域活性化とICT③】

「地域活性化」とはなにか

さて、この「ICTと地域活性化」という特集ですが、「ICT」については説明しましたが、肝心の「地域活性化」について、まだ定義していません。実はそれには理由があります。「地域活性化」について説明するためには、まず「地域」について定義することが必要です。地域活性化という文脈で言われる「地域」は、時として商店街であったり、農村部であったり、郊外の団地などであるわけですが、必ずしも地図上で定義されるものではありません。むしろ、居住地域を軸としつつも、生産や自治、風習などで深い結びつきをもつ共同体(コミュニティ)のこと指す場合が多いように思います。ところが、このコミュニティという概念が、また厄介で、社会学者のG.ヒラリーによれば94通りの定義例があるそうです。しかも日本の場合この「コミュニティ」が変化の過渡期であったりするわけです。「地域活性化」とは、コミュニティのあり方そのものを考えるということであり、それが最初から「地域活性化」をばっちり定義しない理由です。

ただ「地域活性化」の必要性がいわれるようになった理由ははっきりしていて、とにかく自分が住まう土地で、それまであった人々の「結びつき」が無くなりつつあって、それが地域経済や生活に支障が出るようになったということです。

そこで、これから話を進めるためにも、「地域」とは、「居住地域を軸としつつも、生産や自治、風俗などで深い結びつきをもつ共同体(コミュニティ)」であって、地域活性化とは、「コミュニティにおける人々の結びつきを作り出す、あるいは取り戻すこと」ぐらいで仮置きしておきたいと思っています。

もう一度ゴールを確認しておきましょう。本特集では様々な事例を踏まえつつ、これからの「コミュニティ」のあり方を探り、そしてICTが出来ること、やるべきことについて考えることです。いずれにしても、現時点で、地域活性化とは、地域経済の活性化、商店街の活性化と必ずしもイコールでないことは注意して欲しいと思います。

地域ポータルサイト

さて、ようやく本論ですが、本日取り上げるのは「地域ポータルサイト」です。地域ポータルサイトとは、地域の観光やイベント情報、飲食店などの店舗の情報などを集めたサイトです。なにしろ数多くあるので、皆さんが住んでいる地域にもあるかもしれませんが、実は、そのすべてが成功しているとはいえません。むしろ失敗している方が多いように思います。皆さんも地元のポータルサイトを見て、宣伝や不動産情報ばっかり、あるいは信頼できない情報ばっかりで、ガッカリした経験があるかもしれません。ダメな地域ポータルサイトに共通なのは、そこに供給者サイドの視点しかないということです。つまり売りたい、儲けたいという気持ちが前面に出て、サイトを訪れる人間のニーズなど、考えていないことです。そこで今回は、川崎市と厚木市にある二つの地域ポータルサイトを紹介します。

川崎市と厚木市の地域ポータルサイト

川崎市には、民間事業者の運営する4つの地域ポータルサイトがあります。①地域情報が中心の「まいぷれ」、②ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能など、ユーザー参加型のコミュニティである「川崎タウン」、③事業者向けの「Bizloopかわさき」、④横浜市を含む田園都市線を中心とした広域情報を発信している「アゼリアスタイル」です。

川崎市は、各ポータルサイトの特色に応じて行政情報を提供しています。そのことで、利用者は官民の区別に関係がなく、必要な情報を得ること出来ます。ちなみに4サイト全体で、2008年は、約468万アクセスがあり利用者は約100万人、2009年は、約439万アクセスがあり約126万人が利用したとのことです。

地域ポータルサイトがあっても、意外と知られていないこともありますが、その点で工夫したのが、厚木市の地域ポータルサイト「マイタウンクラブ」です。このポータルサイトは、厚木市の出資により構築されたのですが、利用者を増やすために「図書館カード」に注目しました。利用者登録をすると、図書の検索・予約が出来るのは当たり前ですが、それだけでなく、公共施設の利用や講座イベントの参加を予約することができるようにしたわけです。

このような住民のニーズが明らかに高いサービスを動員の軸としながら、「まちの話題」「サークル情報」「企業・ショップ情報」などの情報を、住民が得ることをできるようにしています。さらに「あつぎ地域SNS」を開始し、地域住民の顔が見え、かつネット上で交流できるようになっています。このような工夫が実って、市の人口の半分近い10万件の登録があるそうです。地域SNSも活発であり、コミュニティ数が235、記事参照数は月360 万件という状況です。そもそも自治体主導で始まったサービスですが、現在では市民80人ぐらいからなる住民ボランティア組織がサイト内のパトロールやまちかどレポートをしています。

両者に共通するもの

この厚木市と川崎市のポータルサイトに共通する点が三つあります。第一にユーザー目線が組み込まれていることです。多くの地域ポータルサイトが供給者目線で失敗していると、先に述べましたが、川崎市のポータルサイトの場合、ビジネス関係で情報が欲しい場合は、「Bizloopかわさき」を見ますし、地域に密着した情報が欲しい場合は「まいぷれ」を見るという、はじめから「玄関」が分けられています。さらに、それぞれのサイトにふさわしい行政情報を行政が提供していることから、いちいち自治体ホームページと地域ポータルサイトを二つ見る必要がありません。大体ユーザーからすれば、情報の供給者別(行政か民間か)に関係なく、必要なのは目的別の情報(ビジネスに必要な情報、休日にデートに行く先の情報、子育ての情報など)なはずです。そうであるならば、官民の区分けを横断したポータルにするべきではないでしょうか。

厚木市もその点で工夫が見られます。市のホームページと連動し、横断検索できるようになっています。例えば「子育て」を検索すると、市の予防接種のお知らせや、医療費などの情報だけでなく、子育て講座や子育てサークルの案内、地域SNSでの個人の意見なども一緒に得ることができるようになっています。

第二にネット上だけでなく、実際のコミュニケーションに役立っているということが挙げられます。ポータルサイトを通じて、子育てや趣味などを同じくする新しいサークルが出来上がり、ネット上だけでなく実際に集まって行動を起したりしているようです。よく「地域ポータルといったって、所詮ネットは若者だけのものだから意味はない」という批判がありますが、例えば厚木市の場合、平均年齢が70歳を超える植物研究のサークルで、発表の場として地域SNSを利用している例もあるとのことです。また保育所ごとにコミュニティがあり、保育士が子供たちの様子をリアルタイムで書き込むといった取り組みなどもしているとのことです。このように、実際の現場とネットでの交流を通じて、次第に絆が強まっていく、そしてそれが、地域全体の活性化につながっていくと考えられるのではないでしょうか。

第三に、川崎市も厚木市も「行政」が自らの役割を認識し、必要な仕事をしっかりとしているということが上げられます。前回のエントリーでも指摘しましたが、きめ細かな行政サービスが求められる一方、地方財政は逼迫しており、とても行政だけでは、そうした住民ニーズにこたえることが難しくなっています。であるならば、行政が持っている資源(膨大な住民情報、公的な情報、資金)を活かして、民間に「公益」を担ってもらう道を考えるべきで、それがGovernment2.0における「条件整備者(enabler)」としての役割です。そうした理念に両自治体の行政の姿勢は合致しているといえます。川崎市も厚木市も、実はサービス立ち上げに際しても手厚い支援をしています。行政は後ろでしっかり支えつつ、民間が主体的に創意工夫をこらすというのが理想的かもしれません。

まとめ

最初に述べたように、「地域活性化」の目標が「コミュニティにおける人々の結びつきを作り出す」というところにあるならば、地域ポータルサイトは非常に重要であるといえるでしょう。ただ、地域活性化を地元経済や商店街の活性化とイコールと考えている人にとっては、地域ポータルサイトは物足りないものに映るかもしれません。しかしここで取り上げたような、活発な地域ポータルサイトには、生活者の生の声やニーズが溢れています。そこにはビジネスチャンスがあるはずです。逆に、こうした生活者の視点・声をおろそかにしてきたことが地元経済の空洞化の一原因であるようにも思います。地域に活発な交流が生まれ、地元に対する愛着が深まるならば、もっと地域のために汗をかこう、貢献しようという人間は増えるのではないでしょうか。そこが地域活性化の突破口であるようにも思います。

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