農業への活用-「内子フレッシュパークからり」【地域活性化とICT④】

1.農業の危機

日本の農業が危機的状況にあるといわれて久しいですが、なかなか好転の光がみえません。9月8日に農林水産省が発表した「農林業センサス」(速報値)によると、農業就業人口は260万人で5年前と比べて、75万人減少したことがわかりました。85年には543万人の就業人口がいたわけですから、ほぼ半減したわけです。また就業者の高齢化も深刻で、平均年齢が65.8歳となり、初めて65歳を超えました。

また過去1年以上作付けせず、今後数年耕作をする予定のない耕作放棄地は40万ヘクタールにのぼります。これはだいたい、埼玉県の総面積に匹敵する面積です。

このような農家人口の減少・高齢化、耕作放棄地の増加に加え、食料自給率の低下、後継者不足など、様々な問題が指摘されています。

2.ICTへの期待

近年、このような問題を解決する一つの方策として、ICT(情報通信技術)の活用が注目されています。例えば、GPS(全地球測位システム)やGIS (地理情報システム)を通じた効率的な土地利用、土壌や農作物の生育の状況をデータ化し、生産管理へ活かすことで、生産性を向上することが考えられています。

また、流通の改善や販路を拡大する上でもICTへの期待は高まっています。生産者と市場を繋ぎ、市況に合わせて無駄なく農作物を出荷することや、ネット上での直接販売などが一部で行なわれています。成長著しいアジアの市場に対しても販売できないか考えられています。

さらに近年、消費者の関心の高まっている「食の安全・安心」にとって、ICTは不可欠です。例えば、生産から流通、消費までの履歴を照会する「トレーサビリティ」が重視されてきています。さらに有機無農薬栽培等の証明をつけることによる高付加価値化を図ることも考えられます。その他、例えば後継者対策として、農業就業希望者に対するICTを用いた遠隔学習など、様々な活用が考えられています。

3. 「内子フレッシュパークからり」

農業分野でICTを活用した成功事例はいくつかあるのですが、今回はその中でも代表的な、愛媛県の内子町にあるフレッシュパーク「からり」を紹介したいと思います。この事例には、ICTを農業に活用する際の、重要なポイントがあると考えています。

内子町は総面積の7割以上を山林が占める典型的な中山間地の農村です。この内山町も他の地域同様、過疎化と少子高齢化、そして農業の後継者問題に悩まされていました。そんな折、1985年に農家の女性を中心として、地域の将来などについて学習する「内子町知的農村塾」がつくられました。そして、この知的農村塾の出身者を中心として、94年に「内の子市場」が開設され、農産物直売所を始めます。96年には、内子町と町民による第三セクター「内子フレッシュパークからり」に発展していきました。

「内子フレッシュパークからり」は、ただ生産するだけでなく、消費者に対し直接マーケティングをすること、農業の情報化によって、生産や流通、販売の情報共有を図ること、商工業者や行政と協力しつつ、農業を総合産業化(農業の3.5次産業化)すること、都市住民との交流の活性化などを目標と掲げています。

この「内子フレッシュパークからり」で活用されているICTが「からりネット」です。産直市場は消費者の支持に支えられ、順調に売り上げを伸ばしていましたが、出荷物が増えるに従い、品目や価格の迅速な変更が難しくなり、出荷や引取りなどに非効率が目立つようになりました。また天候や来客数に応じた出荷品の調整も課題となっていました。

そこで、導入されたのがこのシステムです。農家には農業情報端末を、特産物直売所にはPOS(販売時点情報管理)システムを設置し、電話回線とLANによりレジと農家を結びました。

その後、専用端末以外の一般ファックスでの情報出力や電話音声による販売情報の読み上げ、携帯電話、パソコンへの販売情報メール配信などを行なうようになりました。さらに、気象観測ロボットを設置して、気象情報の配信もおこなっています。同時に農家の方が使えなければ意味がないので農業情報センターを作り、ITリテラシーの向上を図りました。

このような努力があって、システムはかなり浸透しており、このシステムを通じて、個々の農家は出荷品の販売状況を見ながら、足りないと思えば、新鮮な商品を畑から取ってきて店頭に並べ、逆に売れ残った場合は、引き取りに出かけています。今では80歳を越えた高齢者でも、畑からPOS情報を取得しつつ、新鮮な農作物を畑から採ってくるそうです。

4.なぜ成功したのか

「内子フレッシュパークからり」は、内子町の農業を変えたといえるでしょう。新鮮な直売所は評判を呼び、年間70万人を越える人が集まるようになりました。うち7割がリピーターだそうです。会社としての売り上げは、7億円を超えました。参加する農家数は最初200名でしたが、約430名(内子農家の20%)まで拡大しました。兼業農家では、平均して月10万円前後の副収入が見込まれ、年収1000万を超える専業農家も現れたということです。

この「内子フレッシュパークからり」がなぜ成功したのか、その要因を列挙すると、第一になんといっても、信頼がもてる農産物であることが挙げられます。内子町は独自の土壌診断や残留農薬分析を実施しつつ、防虫ネットや対抗植物を活用した低農薬農法を実践しています。そしてトレーサビリティシステムにより、消費者はネットで農作物の安全性を確認できます。なによりも産直所にいけば、そこにいる農家の方が作っていることが分かります。このような「農家の顔が見える」ことが、消費者の安心感の醸成に役立っています。

第二に、出荷農家の自主性・自発性が土台になっていることがあげられます。前述のように、この直売所は、農家の女性が中心となってはじめ、自分達の問題を自分達で解決しようという「塾」から始まりました。システム導入時には、参加者に高い意欲と問題意識があったことは重要でしょう。さらに「からりネット」は共通していても、このシステムをどう活用するかは、各農家の自主性に委ねられています。工夫の余地が農家のやる気を刺激しているといえるでしょう。

第三に、農業だけでなく、地域全体を活性化しようという運動との相乗効果が挙げられます。内子町は、江戸から明治にかけて、木蝋や和紙の生産により繁栄した歴史があります。そこで旧市街地にある伝統的な町並の保存運動が住民から起こっていて、町並み観光と「からり」での買物が、相乗効果を生み出し、町全体のイメージを向上させ、リピート客を生んでいることが、アンケートなどからも明らかになっています。

第四に、行政が手厚い支援をしていることが挙げられます。「内子フレッシュパークからり」の運営には、内子町から出向された行政職員も参加しています。また資本金のうち、2分の1を内子町が出資している他、システムの導入などにおいて、国・地方から各種補助金を受けています。

5.まとめ

このように、見てみると、ICT導入の成功事例として有名な「内子フレッシュパークからり」ですが、ICTの技術そのものよりも、行政や農家、技術者が一体となって進めたことや、農家自身に「自主性・自発性」が備わっていたことが重要だったように思います。このような教訓は、農業分野でICTを導入する際に重要なポイントになるように思います。今でも生産は「農家」、流通販売は「農協」という分業がされている地域がほとんどですが、そこで思考停止することなく、現場にいる農家が声を上げ、立ち上がることがまずは重要だといえるでしょう。その上で、中山間地であっても、農家の自立は可能だということを示した内子町の事例は、他の地域に勇気を与えてくれるものといえるかもしれません。

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